オリンピック金メダルの素材は銀。理由を知ればもっと五輪が楽しみに!

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東京オリンピックを1年後に控え、2019年7月24日に東京国際フォーラムで行われたオリンピック1年前セレモニーで、オリンピックメダルのデザインが一般公開されましたね。7月27日~31日には東京都庁で一般公開も開かれていた様です。

ところで、オリンピックの金メダルの主成分はゴールド (金) ではなくシルバー (銀) だということをご存知でしたか?私はずっと純金製だと思っていて、「やっぱり世界一のメダルは豪華だなー」なんて漠然と眺めておりました。

初めて銀製にゴールドフィルド (金張り) と知った時には「なぜ?大変な功績なのだから純金がいいのに!」と残念に感じましたが、そこにはオリンピックであるがゆえの理由がありました。と、いうわけで今回はオリンピックメダルについて詳しくご紹介致します。

 

オリンピックメダルの規格条件は決められている

オリンピックメダルの規格にはIOC (国際オリンピック委員会) によってメダルの形から首に下げるリボンの部分まで細かく制約があります。規格を定めず自由にしてしまうと主催地同士の競争が起きかねないので、意義のあるルールですね。

メダル部分については以下の条件になっています。

直径
70mmから120mm
厚さ
3mmから10mm
重さ
500gから800g
原材料
1位・2位のメダルは銀製で、少なくとも純度1000分の925であるもの
1位のメダルは少なくとも6グラムの純金で金張り
原則として丸型

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会より抜粋

赤文字部分をご覧になって頂くと分かる通り、金メダルはシルバージュエリーの標準的な純度であるスターリングシルバーと呼ばれる92.5%以上の純度の銀と明記されています。そうなんです!1位のメダルは金製ではなくゴールドフィルドなんです。

そして、夏季大会では表に勝利の女神であるニケ (Nike) を、裏は競技の名前と大会エンブレムを入れることが決められています。

オリンピック銅メダルの成分は?

では3位銅メダルは?というと青銅もしくは丹銅と、なっている様です。銅メダルの英語名はBronze medal (青銅メダル) ですから、青銅の方がより正式な感じがしますね。

青銅と丹銅はどちらも主成分は銅ですが、数%のスズ (Sn) を混ぜた物は青銅、数%の亜鉛 (Zn) を混ぜた物は丹銅になります。青銅は文字通り青みを帯びており、丹銅は赤みの強い銅です。2020年東京オリンピックの銅メダルには丹銅が採用されています。

 

オリンピックメダルの歴史

オリンピックと聞くと長い歴史を持っている印象がありますが、初回大会は1896年と意外と近代の開催です。

長い歴史に感じるのは、近代オリンピックの前身として、紀元前9世紀頃から紀元後4世紀頃までヨーロッパ圏で行われていた古代オリンピックのイメージが強いからでしょう。古代オリンピックはギリシャ神話に端を発する宗教的なお祭りであったとされています。

これに対し、現代のオリンピックは五輪のデザインからも分かるように世界の五大陸を繋ぐ平和の祭典として開催されています。世界平和・相互扶助の精神の元に、初めは少なかった参加国も現在では200を超えています。

1896年にギリシャのアテネで開かれた初回大会では、財政上の事情から1位銀メダル、2位銅メダル、3位には賞状が贈られた様です。その後、日本が初参加した1912年のスウェーデンのストックホルム大会まで、1位には純金製のメダルが贈られていました。

その後、2度の世界大戦を経て2003年にようやく現在の規格条件が定められました。「平和の祭典どころではない。」そんな厳しい時代を乗り越えて、メダルの規格が決定されたという事実は、ようやく平和を考えられる時代になったという証でもあるのです。

1896 Olympic medal.jpg
1896年のオリンピックメダル (Public Domain, Link)

 

なんで金メダルは銀製なの?

現代になってから定められたメダルの規格ですが、金メダルが純金製もしくは金を主成分とした合金ではなく銀製にゴールドフィルドもしくは金メッキとされているのには重要な意味があります。オリンピックの目的をIOCは次のように定めています。

オリンピックは4年に一度開催される世界的なスポーツの祭典です。スポーツを通した人間育成と世界平和を究極の目的とし、夏季大会と冬季大会を行っています。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会より抜粋

世界中のあらゆる国がオリンピックを開催・参加できる様に門戸を開き、世界の人々がスポーツ交流を通して喜びを感じ、助け合える環境を考えてくれています。

オリンピックの開催には莫大な費用がかかりますが、開催国は必ずしも先進国とは限りません。1位が銀製であることは、開催国が発展途上国の場合にも「○○の国では1位は金製だったのに今回は銀じゃん!」などの不公平感が生まれないためのアイデアなのです。

 

知ってた?2020年東京オリンピックのメダルはココが凄い!

開催地ごとに工夫を凝らして作られるオリンピックメダルですが、2020年の東京オリンピックのメダル制作では、本来のデザインや製法以外に素材の集め方にもこだわって今までにない取り組みがみられました。

東京2020オリンピックメダルの仕様

直径
85mm
厚さ
7.7mmから12.1mm
重さ
金: 約556g
銀: 約550g
銅: 約450g
原材料
金: 純銀に6g以上の金メッキ
銀: 純銀
銅: 丹銅 (銅95 : 亜鉛5)
丸型

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会より抜粋

東京2020オリンピックメダルの金・銀メダルは純銀製です。純銀はとても柔らかい金属ですので、落としてしまった際には大きく変形してしまいますが、きっと微量の硬化剤を混ぜて強度を上げているのでしょうね。

東京2020オリンピックメダルのデザイン

tokyo2020org-screenshot.png
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「東京2020オリンピックメダルのウェブページ

東京2020組織委員会は、次のメダルデザインのコンセプトを元に2017年12月20日から2018年1月19日に入賞メダルコンペティションを開催しました。

  • 光と輝き -Brilliance-
  • アスリートのエネルギー -Energy of athletes-
  • 多様性と調和 -The unity and diversity-

3つの要素が一つになり、光の環 -Myriad Circle- になる

この結果、大阪芸術大学芸術学部美術学科出身でデザイン事務所SIGNSPLAN代表の川西純市さんのデザインに決定しました。

都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト

東京2020オリンピックのメダルは、不要になった携帯電話、パソコン、携帯ゲーム機などを日本全国から回収して、金属を製錬して作るという世界初の試みの元に作られました。

2017年4月1日から2019年3月31日の期間に実践されたこの都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクトによって、金が約32kg、銀が約3,500kg、銅が約2,200kg、生み出されました。

元となった廃品小型家電の回収量は全国自治体分で約78,990トン、NTTドコモ回収分が約870トンの合計79,860トンというとてつもない量です。少し残念なことに、これらの廃棄品からメダルになるまでの総費用が明らかにされていません。

総費用を公開した方が、他国での取り組みやすさや、私達のリサイクル意識をもっと高められたのではないかと思います。

とはいえ、個人がオリンピックの準備に気軽に参加できて、日本の資源リサイクル技術をオリンピックを通して世界に紹介するという試みは、世界の方々のみならず私達自身もリサイクルの大切さを実感できる素晴らしい企画ですよね。

 

まとめ

オリンピックメダルの素材や歴史に関して、普段から貴金属を扱う立場としての知見も踏まえてご紹介させて頂きました。

オリンピックが平和と友好の祭典であるがゆえに金メダルは銀で作ることが決められていているということは、競技だけでなくイベント全体の理念が統一されているということです。とても素晴らしいですよね。

また、開催地となる各国が得意とする分野の紹介や、抱えている問題を外の世界に向けて分かりやすい形でアピールする取り組みも、他国だけでなく自国について振り返る良い機会になっていると思います。

早くも1年後となった東京2020オリンピック、様々なドラマが生まれることでしょう。実際に競技場で観覧される方も、テレビを通して応援される方も競技後の表彰式までご覧頂き、競技の興奮とメダルに託された目には見えないを価値を感じて頂けたら嬉しいです。

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