神奈川県の地域情報誌はまかぜ新聞にチーフデザイナー坂東幸香のジュエリーポエム「母のオパールリング」をご掲載頂きました。
母のオパールリング
坂東幸香
粋でお洒落な母が亡くなって、六年がたった。
母不在の日常を受け入れられる様になり
やっと弟と和箪笥の整理をし始めた。
五十年前の入学式の羽織を見つけ、
懐かしい着物姿の母を思い出した。
ところが袖にゴロゴロ何か入っている。
古ぼけたリングの箱だ。
蓋を開けると、深い紺碧の中に点在する
赤・緑・黄色・オレンジ・・・
まるで宇宙の様にそれぞれの色が
チラチラチラ燃えている宝石の指輪
ここ一番のときには、
必ず母の薬指にはまっていた美しい指輪があった。
「ワぁ~、綺麗だね、お母さん!!」と
弟と言い合い魅入って、
見上げた母は微笑んでいたっけ。
箱の上蓋に小さく畳んだ黄ばんだ紙が挟まっている。
新聞の折り込み広告紙を乱暴に引きちぎり、
鉛筆で殴り書きした・・・ビリビリのメモ
姉弟仲良くね。「キョウダイナカヨクネ」
思わず弟と声を合わせて読んでいた。
凄いな母さん、これって遺言??
忙しい母の、一瞬で作られた羽織の中の遺言。
無事に届くと知っていたのだろうか
オパールリングの揺らめく光に尋ねてみた。
江戸時代から続く老舗和菓子屋さんのお母様がお亡くなりになられた時のエピソードです。亡くなられてからしばらく経って、幼い頃から仲の良かった弟様と意を決してお母様の遺品の整理をしていた時に羽織の中から偶然オパールの指輪を見つけられたそうです。
昭和初期の加工に歴史を感じるその指輪は、上質のブラックオパールをイエローゴールドの細い4本の爪で留めたものでした。
羽織の中から現れたその指輪と、八百屋さんのチラシの裏に鉛筆で殴り書きされていた文字は、幼い頃によく目にしていた日常の風景そのままで、「まるで時間が戻ってしまったかのように感じたのよ。」と仰っていました。
同時に「キョウダイナカヨクネ」はお母様からずっと言われていたこと、そしてお母様がこのオパールの指輪を一番大切にしていたことを思い出して、お二人でしばしの沈黙。
そんなエピソードがあり、この指輪だけはきちんとリフォームして、母といつまでも一緒にいたいとお持ち頂きました。
ミステリアスで宇宙を想像させる鮮やかな模様のブラックオパールを活かし、周りを濃淡のサファイヤでカラーグラデーションさせて取り巻いています。遊び心を加えるために四角のダイヤモンドをランダムにちりばめ、立体的で惑星群の様な指輪が仕上がりました。
華やかで柔和なお客様の雰囲気に生まれ変わった指輪をしばらく眺め、「元気のないときには、この指輪を時々眺めて母に話しかけながら使うわね。」と微笑まれていらっしゃったのが印象的でした。
「ジュエリー百のお話」は、オリジナルジュエリーの制作の際や、ジュエリーのオーダーメイド・リフォーム時にあわせて創っています。
お話は、不定期のコラムとして神奈川県内のフリーペーパーはまかぜ新聞「はまかぜ金沢版」で、連載させて頂いております。
オーダーメイド・オーダーリフォームをされる際に、「わたしのジュエリーにも詩をつけて欲しい!」というご希望がございましたら遠慮なくおっしゃって下さいね。
ジュエリー優をご利用される方々が、それぞれの想いでジュエリーやアクセサリーを好きになって、笑顔が増えていくことを願いながら日々私達はデザイン・加工・情報発信をしています。