神奈川県の地域情報誌はまかぜ新聞にチーフデザイナー坂東幸香のジュエリーポエム「ルビーの婚約指輪」をご掲載頂きました。
ルビーの婚約指輪
坂東幸香
前を向きたくて、リフォームする事にした。
主人がくれた思い出の指輪
優しい彼なので穏やかで楽しい毎日。
ある日突然、彼が病魔に倒れた。
二人で必死に病気と闘った。けれど・・・
ずっと家で寝たきりの日々になった。
悲しいな、しんどいなとつい思ってしまう。
そんな時、悲しい眼をして私を見る彼
だから、私、決めたの、変えようって
綺麗な色の服を着て楽しいおしゃべり沢山した。
暖かな眼差しがもどってとても幸せだった。
なのに、気が付いてしまった事がある。
で、わざと喧嘩を吹っ掛ける。
ベッドを叩いて彼は怒る。
ごめんごめん!と仲良くしてはまた怒らせる。
少しづつ、お別れの日はやって来た。
「君と、幸せだった・・・ありがとう。」
あなたの笑顔、怒った顔、悲しい顔・・・
あなたが生きているって事
喜 怒 哀 楽の一つひとつ、一生懸命生きた。
あの日から私の時間は止まったまま
今、やっと前へ歩ける、この指輪と一緒なら
優しく強く私らしく、あなたと共に・・・
「こんにちは!」明るい声でご来店下さったその方は、ゆったりとした所作で澄んだルビーをダイヤモンドで綺麗に取り巻いた指輪をバッグから取り出して「元気になって前を向ける指輪にして下さい。」と仰いました。
少し間を置いて、「出来上がりは少し先でもよいですから。」と。
お客様はかれこれ5年間、「病院もヘルパーさんもイヤ!」というご主人様をたった一人で支え続けていらっしゃいました。「優しくできる時は良いんだけどね、時々疲れちゃって、私がイライラするとあの人もイライラしてね・・・」
「色々大変なんだけど、気が付いたのよ。彼が生きてるってことに。当たり前かもしれないけど、怒ったり・泣いたり・笑ったり・喧嘩したりすることが生きている時間なんっていう事に。」
「だからね、わざと喧嘩をふっかけて怒らしたり、綺麗な洋服を着て感想を聞いてみたりしていたのよ。それで心が煮詰まると外を歩いて気晴らしして、それでまた彼の傍でいろいろ試してみてたの。」
とお客様はいたずらっぽく笑っていらっしゃいました。「この指輪はね、彼が30年以上も前にくれたの。もういなくなっちゃったんだけどね、このリングをリフォームして彼にも喜んでもらおうと、今日は思い切って来たのよ!」
「なかなか自分一人じゃ前を向けなくてね、指輪が出来上がったら、それを着けて彼にも褒めてもらってね、そしたら気持ちが切り替わるかなって。」私は自問しました。「こんなに一生懸命時を大切にしてきた方の気持ちに応えることができるのだろうか?」
でもすぐに思い直しました。精一杯応援しようと。お二人の想い出を沢山詰めたフォルムに、使いやすくて、常につけていられる指輪をデザインしました。
プラチナの花弁の中にルビーをパッと咲かせ、周りにはさりげなく光る小粒のダイヤモンドを散らして、側面にも。
お客様は、出来上がった指輪をご覧になって「私、やっと前へ歩けるわ。」と仰っていらっしゃいました。あの後、ご主人様にも喜んで頂けていたらとても嬉しいです。
「ジュエリー百のお話」は、オリジナルジュエリーの制作の際や、ジュエリーのオーダーメイド・オーダーリフォーム時にあわせて創っています。
お話は、不定期のコラムとして神奈川県内のフリーペーパーはまかぜ新聞「はまかぜ金沢版」で、連載させて頂いております。
オーダーメイド・オーダーリフォームをされる際に、「わたしのジュエリーにも詩をつけて欲しい!」というご希望がございましたら遠慮なくおっしゃって下さいね。
ジュエリー優をご利用される方々が、それぞれの想いでジュエリーやアクセサリーを好きになって、笑顔が増えていくことを願いながら日々私達はデザイン・加工・情報発信をしています。